「お身体を綺麗に保つために、エンバーミングをしませんか?」
「最後にお風呂に入れてあげましょう(湯灌)」
葬儀の打ち合わせで、こう提案されて戸惑ったことはありませんか?
「やってあげたいけど、追加費用が10万、20万とかかる……」
結論から言えば、これらは必須ではありません。しかし、火葬場が混んでいて1週間以上待つ場合や、闘病で痩せ細ってしまったお顔をふっくら戻したい場合には、値段以上の価値がある技術です。
本記事では、よく混同される「エンバーミング(防腐処置)」と「湯灌(洗浄儀式)」の違いと、それぞれの費用対効果について、元葬儀社エリアマネージャーが解説します。
どっちが必要?「エンバーミング」と「湯灌」の違い
名前は似ていませんが、どちらも「遺体をケアする」オプションです。決定的な違いは、「医療的な処置か、儀式的な洗浄か」という点にあります。
エンバーミングは「医療的な防腐処置」
専門の資格を持った「エンバーマー」が行う、科学的な保存技術です。遺体の一部を切開して、体内の血液を排出し、代わりに防腐剤を注入します。
これにより、腐敗を完全に止め、殺菌・修復を行うことができます。
- 目的: 腐敗防止、感染予防、生前の顔への修復
- 費用相場: 15万円〜25万円
湯灌(ゆかん)は「お風呂に入れる儀式」
専門の「納棺師(のうかんし)」が、専用の浴槽を持ち込んで、シャワーとお湯で遺体を洗い清める儀式です。
洗髪や顔剃り、メイクを行い、最後に仏衣を着せます。あくまで表面の洗浄ですので、体内の腐敗を止めることはできず、保冷のためのドライアイスが必要です。
- 目的: 故人の旅立ちの準備、清め、癒やし
- 費用相場: 5万円〜10万円
エンバーミングをする最大のメリット3選
費用は高いですが、エンバーミングにはそれを補って余りあるメリットがあります。
特に遺族の精神的なケア(グリーフケア)において、効果は絶大です。
1. ドライアイスが不要になる
通常、ご遺体はお腹や頭にドライアイスを当てて冷やし続けるため、カチカチに凍ったり、結露で布団が濡れたりします。
しかし、エンバーミングをすれば常温で保存可能になり、ドライアイスが一切不要になります。冷たくない、柔らかい肌のまま、手をつないだり頬に触れたりして、「まるで眠っているような状態」でお別れができます。
2. 生前の顔色に戻る(修復技術)
長い闘病生活で頬がこけてしまったり、黄疸(おうだん)で肌が黄色くなってしまったりすることがあります。
エンバーミングでは、防腐剤と一緒に色素を注入したり、詰め物をしたりすることで、「元気だった頃のふっくらした顔色」を取り戻せます。
「苦しそうな顔を見て別れるのが辛い」という遺族にとっては、大きな救いになります。
3. 感染症のリスクがなくなる
血液を薬剤と入れ替えるため、体内のウイルスや細菌は死滅します。結核や肝炎などの感染症を持っていた場合でも、無菌状態になりますので、小さなお子様や高齢の方が触れても安全です。
判断基準:やらなくてもいいケース・やるべきケース
葬儀社の営業トークに乗せられるのではなく、状況に合わせて冷静に判断しましょう。
【不要】冬場で、亡くなってから3日以内に火葬できる
冬場で気温が低く、すぐに火葬場が予約できた場合は、腐敗のリスクが低いです。通常のドライアイス処置と、納棺師による「ラストメイク(化粧)」だけで十分に綺麗なお顔でお別れができます。
【推奨】夏場で、火葬まで1週間以上待つ
都市部では火葬場が混雑しており、1週間〜10日待ちということも珍しくありません。夏場に1週間ドライアイスを当て続けると、遺体の乾燥や黒ずみ(冷凍焼け)が進んでしまいます。
また、ドライアイス代だけで10万円近くかかることもあるため、「綺麗なまま保存でき、ドライアイス代も浮く」と考えれば、エンバーミングの方がコストパフォーマンスが良いと言えます。
どこでやるの?申し込みの流れ
エンバーミングは特殊な設備が必要なため、自宅や葬儀場の控室ではできません。
専用施設への搬送が必要
依頼すると、一度ご遺体を「エンバーミングセンター(専用施設)」へ搬送することになります。
処置には3〜4時間ほどかかり、その後、再び安置場所(自宅や葬儀場)へ戻ってきます。
基本的には、担当の葬儀社を通じて申し込みますが、搬送費用が別途かかる場合があるため確認してください。
まとめ:費用は高いが「最後のお金の使い方」として価値あり
「高いから断ったけど、当日になって顔色が悪いままお別れして後悔した」という遺族の声は少なくありません。
もし迷っているなら、今の故人のお顔を見て「この表情を、火葬までの○日間維持できるか?」を葬儀社の担当者に聞いてみてください。
「少し難しいかもしれません」と言われたなら、エンバーミングは検討に値する選択肢です。

